今なぜアナログレコードなのか?
2021年8月 作並便り
澤井 清
筆者横顔
仙台作並の後期高齢者。某女子大名誉教授。現在は全日空作並支局長。全日空とは「全」ての「日」が「空」いていること。 趣味は多彩。ジャズ喫茶めぐり、写真、ハイレゾオーディオなど。新型コロナ感染の時代になりナチュラリストへ変身。
新型コロナによる被害が留まる所を知らない米国で、アナログレコードの市場がかってない勢いで伸びている。2020年のブラックフライデー・セールイベントはアメリカの音楽歴史上、過去最高の売り上げを達成した。11月27日から12月3日の1週間における「アナログレコード」の売り上げは125万3000枚。アメリカのマーケティング調査会社「ニールセン」が米国の音楽売上数を集計し始めた1991年以降、週単位で過去最高の売り上げ枚数と言われている。そして、遂にアナログレコードは全米レコード協会(RIAA)によると、2020年の上半期で売上高2億3210万ドルを記録し、CDの1億2990万ドルを超える快挙を成し遂げたのであ
る。〔1〕
アナログレコードの人気は米国をはじめ、世界各地で急激に高まっている。日本でも、最近同様な傾向を示している。「日本レコード協会」によると、レコード生産枚数は1970年代後半に年間約2億枚と全盛を極めたが、CDの出現により2009年には約10万枚に減少した。しかしながら、2019年には約122万枚まで盛り返している。〔2〕
新型コロナ禍においても米国をはじめ海外でも次第に広がって行くこの人気、その理由はどこにあるのか,アナログレコードファンの一員として私見を述べる。
1.アナログレコードとは
レコードは下記の様にエディソンによって世界で初めて発明されて以来、SP、LP、ステレオ、そしてCDと変化した。形こそ様々に変化したが、音楽鑑賞にとって、欠くことのできない大きな役割を果たしてきた。これまで、アナログレコードがどのように変化してきたのか、歴史を簡単にまとめ紹介する。〔3〕
アナログレコードの歴史略年表
1877 年 トーマス・エジソン フォノグラフ発明
1887年 エミール・ベルリナー 円盤型SPレコード発明
1902年 米国コロンビア 円盤型レコード発売
1920年代 電気式ピックアップとアンプ(増幅器)を備えた電機式蓄音機
実用化その後真空管の発達やIC等の発明により
レコードシステム急激に進歩
1948 年 米国コロンビア LPレコード(33 1/3回転)発売
1949 年 米国RCAビクター EP(45回転)レコード発売
1957 年 米国 オーディオ・フィデリティー社
45-45回転方式ステレオ・レコード発売
1971年 日本コロンビア世界初のPCM方式によるデジタル録音開始
1982年 ソニー・日立・日本コロンビア(現DENON)
世界初のCDプレヤー 発売:
CBSソニー、日本コロンビアCDソフト発売
1986年 CDがLPの国内販売数を追い越す
2020年 米国でLPが売上額でCDを超える
上記のように、アナログレコードは140年以上の歴史を経て現在若者をはじめ多くの音楽ファンに注目を浴びている。
レコード盤は78回転のSPから、33 1/3回転のLP,45回転のEPと変化してきたが、現在はほとんどがLPレコードである。
2.LPレコードとは
レコードの演奏時間を長く使用とする試みは20世紀初頭から行われ、上記年表の様に1948年6月21日米国コロンビア社で長時間レコード(Long Playing Record 略してLP)が発表された。発表当初のLP規格は、33回転1/3、30センチ盤一面の演奏時間が22分半で、従来のレコードSP盤に比べ約5から6倍と大幅に延長された。さらに、1年余りのうちに30分以上のカッテイングが可能となった。
LPのメリットはそれだけでなく、周波数帯域が30Hz(ヘルツ)から15,000Hzと大幅に向上した。このことにより、人間の耳が聴き取れることのできる周波数帯域をほぼカバーすることが可能となり、高域雑音と歪みが減少され、ハイ・フイデリティな音が再現可能となったのである。〔3〕
LPレコード盤の色は昔から「黒」と決まっていた。レコードの素材は、ポリ塩化ビニールとポリ醋酸の共重合体で作製された。本来は無色透明であるが、品質管理上「黒」の方が傷や気泡が発見しやすいため、あえてカーボン・ブラックが導入されたのである。以外に知られていない事だが、「黒」以外に一時期赤い材質のLP「赤盤」レコードが東芝レコードから発売された。東芝の赤盤は、レコードに埃が付着しにくいように帯電防止材をレコード原料に混ぜ、高品質レコードブランド化のため、赤く着色し発売。私も1972年頃赤盤を購入した。このLP独身時代に入手したもので、今となっては思い出のレコード。当時、LPは高く1970年の大卒初任給が4万円時代になんと3,000円。レコードを購入するのは贅沢な娯楽であり、憧れでもあった。
「デラックス・ダブル/ペギー・リーの全て」東芝音楽工業株式会社
CP-9364B ¥3,000
LPレコードが再び脚光をあびる2012年、今度は100% Pure LPとして,音に影響のある着色物をすべて排除した無着色透明のLPレコードが出現した。LPレコード(黒盤)の材料は通常、主原料となる塩化ビニールの他にカーボンなど着色のための染料が付加されている。これは、レコード材料の再利用時の事を考量して黒色が採用されているのである。さらに、このLPはふくよかであたたかなアナログの真価を最大限に発揮させるため、マスター/素材選びからプレスまでの全工程を徹底的に追求した、世界初のまったく新しいハイエンドなLPとして発売された。試しに私も、シリーズ第2弾2013年6月発売の「オスカー・ピーターソン/プリーズ・リクエスト」ユニバーサル・ミュージック UCJU-90002 ¥5,800を購入した。
仕上がりは、原料のビニールそのままのやや黄色がかった透明盤である。
左:100% Pure LP盤 右:通常LPレコード
3.LPレコードが好まれる理由
最大の理由は、近年のネット配信による1曲毎のバラ売りよる「アイコン」の様な小さな画像、直径12cmのCDと異なる30cmという大型ジャケットの魅力である。さらに、レコードのスクラッチノイズやジャケットの汚れ等が、「ネット配信」や「CD」にない想い出をやどる価値がある。ジャズ喫茶に行くと必ず魅力有るジャケットが壁際に展示され、これらを体感できる。
また、米国ではジャズレーベル「ブルーノート」の秀逸なジャケットを集めた本まで発売されている。本書にはアート面からも評価されるLPジャッケトが数多く収録。
Blue Note : The Album Cover Art. edited by Graham Marsh , Felix Cromey,
and Glyn Callingham ;
foreword by Hores Silver Chronicle Books ,c 1991
ISBN 0-8118-0036-9
この図書、アートに詳しい友人からプレゼントで頂戴した。私が、ブルーノートのジャズファンだと承知だからである。本書は、ブルーノート・レコード黄金期のLPジャケットがフルカラーで閲覧できる。残念なのは、全てが同じサイズではなく、51点がLPレコードとほぼ同一サイズ(縦横・約1cm弱小さい)であるが,ご覧のように1/4位のサイズもある。51点の掲載されているLPレコードのほとんどが、ブルーノートの名盤と言われる物が多い。ジャズファンなら是非とも持っていたい1冊である。
図書「Blue Note : The Album Cover Art. 」の見開き状態
なお、本書は2014年11月に 「ブルーノート・レコード:妥協なき表現の奇跡」というタイトルで、下記の様に翻訳本が発行されている。
「ブルーノート・レコード:妥協なき表現の奇跡」 リチャード・ヘイヴァース著:
小巻靖子、荒井理子訳 ヤマハミュージックメディア
ISBN978-4-636-90445-1 ¥8,580
「Blue Note : The Album Cover Art. 」に掲載されたLPレコードとほぼ同寸サイズの51点は、いずれもジャズファンにはなじみのLPばかりだ。私も、全てではないが所持しているLPが数多く掲載されていた。その中から代表的なアルバムを2点紹介する。素敵なアルバムを眺めながら集中してLPを聴くのが私の憩いの一時である。
アルバム Cool Struttin' /Sonny Clark Blue Note 1588
最初に紹介するアルバムは、Blue Noteジャケットの中でも最も人気のある「Cool Struttin' /Sonny Clark 」Blue Note 1588である。闊歩する女性の足をアップで切り取った、先鋭なセンスと独創的なアイディアのアルバムである。
それでは、Blue Note屈指の人気盤ソニー・クラークお馴染みのCool Struttin'お聴き下さい。
出典 YouTube
(https://www.youtube.com/watch?v=UiidZPQ9G2g)
もう1点はアルバムジャケットは無論の事、さらに著名なジャズメンの演奏による素晴らしい録音の「Somethin' ELSE」。トランペット(Miles Davis),アルトサックス(Cannonball Adderley)、ピアノ(Hank Jones),ベース(Sam Jones),ドラム(Art Blakey)と超豪華な演奏である。
Somethin' ElSE Cannonball Arderley, Sam Jones他 Blue Note 81595
このアルバムの中から皆様お馴染みのAutumn Leaves(枯葉)をお届けして終わります。暑さ厳しき折、真夏の夜のジャズをお楽しみ下さい。 なお「サムシン・エルス(Somethin ELSE)」オリジナル盤(BST-1595)は、ステレオ開始から1年経った1958年3月9日に録音された。録音はブルーノート・サウンドの創始者ヴァン・ゲルダー。ゲルダーは、音楽史上最も重要なエンジニアで、ジャズレコーディングに優れ、2009年にはジャズ界の最高の栄誉、全米芸術協会(NEA)のJazz Masterを授与された。
5人の演奏者はスタジオの左右壁際と中央に振り分け、トランペットとサックスが左チャンネル、ベースとドラムが右チャンネル。ピアノはセンターとステレオによる臨場感に溢れる素晴らしい演奏である。〔4〕
出典YouTube
( https://www.youtube.com/watch? v=CpB7-8SGlJ0)
参考文献
1.Yahoo News 2020年12月31日
2.時事通信社ニュース2019年9月14日
3.岡 俊雄 「レコードの世界史ーSPからCDまでー
音楽の友社 1981 ISBN-4-276-37046-9
4. KAWADE 夢ムック 文藝別冊「ブルーノート」
河出書房新社 2012
ISBN-978-4-309-97774-4
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