斉藤孝  カメのブログ

カメの個人的ブログです。私の趣味、ガーデニング、友人との交流

『一閑張押花大皿』  山野草の押し花 2020年10月

 『一閑張押花大皿』  


           山野草の押し花 


  

      2020年10月   浅輪正彦 

 


 今回は押し花の話である。これ『一閑張押花大皿』(写真1)と呼ぶ山野草を素材にしたもの。親友の浅輪正彦さんの作品である。浅輪さんは、この皿は和菓子を置く銘々皿からヒントをえたという。香川県の竹工芸品には丸亀団扇と「一閑張」があり、その双方の作り方を取り入れた。


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 (写真1) 『一閑張押花大皿』


押し花にした山野草 

 猛暑であっても軽井沢の朝夕は涼しい。小さなカメの庭にも山野草は次々と咲いてくれる。ユキノシタ、カキドオシ、オダマキや秋には真っ赤に紅葉するカエデの葉などが苔むした岩の間に所狭しと育っている。 

 

オダマキ 

 日本の里山に自生する。草丈は10~70cmで長い茎の先に紫色した花を咲かせる。花びらのように見える部分は、「がく」が変化したものである。 


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(写真2)   オダマキ 

 

そのオダマキが深い渋茶の「一閑張」(写真3)に変わる。 

 

odamakiIkkan.jpg  (写真3) オダマキの押し花 

 

ユキノシタ 

 岩庭に最適な山野草(写真4)である。もともと山地の湿った場所に自生する。脈に沿って縞模様の斑が入った円い葉をつけ、初夏に下2枚の花びらだけが白い5弁花を咲かせる。 


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 (写真4) ユキノシタ 

 

カキドオシ 

 雑草扱いされるが小さな紫の花を付ける。カキドオシ(垣通し)(写真5)は、シソ科の植物なので香が強く匂う。生け垣の下などで隣接地から垣根を突き抜けるほど、勢いよく伸びてくるからだ。 

 

kakitoshi.jpg   (写真5)  カキドオシ 

 

カエデ 

 カエデの葉は紅葉して美しいことから、モミジ(写真6)と呼ばれるようになった。 

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     (写真6)  紅葉したカエデの葉 

 


写真7は、『一閑張押花大皿』の完成した姿である 



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 (写真7) 『一閑張押花大皿』完成した姿 

 

『一閑張』とは何か 

 最初に見た印象は、竹ざる、編み笠、番傘、押し花付きの和紙の竹飾り皿、等々の言葉しか思いつかなかった。裏側を見ると和紙に漆と柿渋が塗られている。たいそう手の込んだ作品なのだ。そもそも「一閑張(いっかんばり)」とは何か。 

 

「一閑張」は、日本の伝統工芸品である紙漆細工のことである。まず紙漆細工を作る方法がよくわからない。調べてみると、中国の明時代に日本に亡命した「飛来一閑」が伝えて広めた技術なので一閑張になったという説もある。しかし人名に由来するとは考えにくい。 むしろ日本の農民から生まれたという説を信じたい。つまり、農民が農閑期の閑な時に作っていたものが「一閑張」と呼ばれるようになった。そして一貫の重さにも耐えるほど丈夫なので「一貫張」と最初は呼んでいたという説。こっちの方がなんとなく合点がいく。 

 

農民の知恵の産物 

 道具を長持ちさせるという農民の知恵の産物なのだ。古和紙と糊そして竹で道具を補強する。これらは貧乏な農民でも手に入りやすい材料といえる。傷んできた場合は張り直して修理すれば、使い続けられる。和紙の上に漆や柿渋を塗れば防水効果もありさらに強度は増す。プラスチック製品と違いまさにエコロジーに徹している。 

 

作り方は、「下張り」「上張り」「塗り」の三段階に分けられる。 

(手順1)下張り 土台となる木型や竹かごなどに、糊で和紙を張り重ね。 

(手順2)上張り 仕上げの和紙を張る。皺が寄らず、継ぎ目が分からないよう、形に合わせて張り重ねる。 

(手順3)塗り  最後に柿渋や漆などで表面を塗装する。柿渋には、防腐・防虫・防水などの効果がある。 

さらにその作り方は浅輪正彦さんの話から具体的に理解できた。 

 

  浅輪さんは、先にも述べたが和菓子を置く銘々皿(写真8)からヒントをえたという。特に愛妻、浅輪昭子さんの生まれ故郷である香川県そこは竹工芸品「丸亀団扇」と「一閑張」昔から有名だった。双方から作り方を取り入れたそうだ。それだけではなく、若冲の「葡萄図」にある虫食いの葉に影響されて虫食いの葉を多く集めた。しかもフランスワイン研修旅行中に集めて保存していた虫に食われた押し葉を皿(写真9)に張り付けて透明漆を塗ったという。浅輪さんは何事にもこだわる凝り性なのだ。 


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  (写真8) 小皿 

 


mushikui.jpg  (写真9)      虫食いの葉皿 

  

浅輪名人の作業は以下のような手順で行う。 

 (手順1) 松井田の真竹を使って竹籤を作る。幅3㎜、厚さ0.3㎜にして2本ずつを「六つ目編み」直径40㎝の大笊を編む。 

 (手順2) 笊の裏面にはティッシュをちぎって糊付け、その上に三角形に切った厚手の和紙の角を中心に合わせて貼る。和紙は白川郷の特産五箇山和紙(写真10)。余分な和紙を切り、松井田で作った柿渋を何度も塗る。 

 

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 (写真10)     白川郷の特産五箇山和紙 

 

(手順3) 6、7月に集めた花を押し花にして、乾燥させて笊の表面に配置して糊付けする。その上に極薄の和紙を糊付けして押さえ(写真11)、その上に透明漆を塗る。 

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(写真11)     極薄の和紙を糊付けして押さえ

  

裏は何回も繰り返して乾燥しかわいた布で「みがき」上げてあるから深い渋茶なっている。根気のいる技が必要になる。 

 

浅輪正彦さんのプロフィール 

 竹取の翁と称される竹細工の名人。思いつめたら何事も一心不乱で正義感の持ち主。コロナ時代から取り残された達人なのか・・。 余談であるが、「柿渋」の力はコロナを殺すという報道もあった。先達の知恵は時空を超えて素晴らしい。


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